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第37話 いらない赤子

作者: 月歌
last update 最終更新日: 2025-06-16 11:50:19

◆◆◆◆◆

セドリックはダミアンの足に目を奪われたまま、動くことができなかった。その左足の指は、確かに六本。赤茶色の髪、青い瞳、そして多指症。全てが彼の中で嫌な確信に繋がっていく。

「どうだ?」

ダミアンが笑いながら言葉を放つ。

「俺の子だって証拠は十分だろう?」

その一言がセドリックの中の何かを完全に壊した。彼は突如立ち上がり、後ろ手に縛られたダミアンの横腹を強く蹴りつけた。ダミアンは呻き声を上げ、地面に倒れ込む。

「セドリック!」

ヴィオレットの叫びも耳には届かない。セドリックは荒い息を吐きながら、何度もダミアンを蹴りつけた。

横腹、みぞおち、足、容赦のない蹴りが続き、ついにダミアンは嘔吐し、そのまま地面に崩れ落ちた。

その場の空気は凍り付き、誰もが言葉を失う中、冷静だったのはただ一人、アルフォンスだけだった。彼は眉一つ動かさず、低い声で告げる。

「それ以上は困る。聴取ができなくなるので遠慮願おうか。」

その言葉に、セドリックは動きを止めた。そして青ざめた顔でふらふらと後ずさり、背中がルイを抱いたミアに当たった。

はっとしたセドリックは振り返り、ルイの左足に目をやる。そして震える手で赤子の靴下をはぎ取った。

露わになった小さな足。

その足には、確かに六本の指があった。

「……医者は言っていた。多指症はよくある病だと。親にその傾向がなくても、生まれることがあると……」

セドリックは呟きながら震える手でルイを見つめる。

「俺の髪色と、俺と同じ青い目。やっと手に入れたんだ……俺の子を……俺の……なのに……!」

彼の声は次第に荒々しくなり、やがて怒りと悲しみが入り混じった叫びに変わる。

「なのに、なんで六本も指があるんだ! 本当に俺の子供じゃないのか、ルイ?」

ミアがルイを抱きしめながら叫んだ。

「違うわ! ダミアンの言葉なんて嘘よ! この子はあなたの子供よ!」

だが、セドリックは聞く耳を持たない。彼はルイを抱くミアから赤子を奪い取り、勢いよくミアを突き飛ばした。

悲鳴を上げて地面に転ぶミア。その光景に誰もが息を呑む。セドリックは皆に背を向けたまま、震える声で何かを呟いている。

「違う、違う、違う! お前は俺の欲しいものじゃない!」

次の瞬間、彼は赤子のルイを高く投げ上げた。

誰もが悲鳴を上げた。その小さな体が地面に叩きつけられる光景が目に浮かぶ。だが、その瞬間――。
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